ドクターミール

記事掲載

掲載紙:神戸新聞 寄稿
日 付:1999年9月24日

「化学物質にどっぷりつかった現代社会の弊害」

掲載内容(見出しから)

環境ホルモン=「外因生内分泌かく乱化学物質」

環境の中に放出されて、「ホルモン」のように作用し、本来のホルモンの働きを乱するといわれる化学物質

 最近、ダイオキシン汚染と言った言葉をよく耳にします。ダイオキシンと言うのは210種類の有機塩素化合物の総称で、ゴミの焼却や金属精錬、紙の塩素漂白などの工程で非意図的に発生するもので環境ホルモンの1つとされています。

 日本では、環境庁が25年前より毎年、大気や河川、湖沼、沿岸といった一般環境中の化学物質の残留状況を継続調査していますが、2~3年前より以前には検出されなかった環境ホルモンとされる化学物質が検出されるようになり、また、前出のダイオキシン類については、なかでも最も猛毒とされる「2、3、7、8-四塩化ジオキシン(TCDD)の検出地点数が、前年度よりも役10倍増えたことが明かになってきました。

 他の環境ホルモンとしては、DDT(昔使われていた殺虫剤)、PCB(絶縁油や熱媒体としてトランスやコンデンサーなど様々な製品に使われていた)、トリプチルスズ(船底や網に防汚剤として塗られていた、カネミ油症という食品の公害の原因物質)、ビスフェノールA(プラスチックの原料)、ノニルフェノール(合成界面活性剤)など、全部で約70~150種類あるのではと考えられています。

  ダイオキシン 産業化学物質 農薬 医薬品
 


・ゴミ焼却
・金属精錬
・紙の漂白
  etc...
・合成洗剤
・プラスチック
・化粧品
・染料
  etc...
・除草剤
・殺虫剤
・抗真菌剤
  etc...
・流産防止薬
  etc...




・ポリ塩化
  ジベンゾフラン
・コプラナPCB 

・ノニルフェノール
・チーオクチル
・フェノール
・フタル酸ジエチル
  etc...
・DDT
・DDE
・DDD
・トキサフェン
・ヘプタクロル
  etc...
・DES
・エチニルエストラジオール
(ピル)
  etc...

「ホルモン」=ギリシャ語で「刺激する(hormao)」

ホルモンはごく微量で作用する特性

 世界各国でおこっている動物の異常現象(例えば、メス同士でつがいをつくるカモメ、アリゲーターのメス化など)は、環境ホルモンによって異常がおこっているといわれています。
人体への影響は精子数の減少や、生殖器異常、体の免疫力の低下を引きおこすのではないかと疑われています。
 人間の体はおよそ60兆個の細胞からできあがっています、これらの細胞が体のそれぞれの場所でその機能を発揮するように指示したり、環境の変化に対応して生体の調節機構を担っているものの1つがホルモンです。ホルモンの分泌が多すぎたり少なすぎたりすると体が不調になり、場合によっては恐ろしい病気にもなります。また、ホルモンはごく微量で作用する特性があります。
血液中のホルモン濃度の単位は「ピーピービー(ppb)」から「ピーピーティー(ppt)」です。よく大気の環境基準などでは「ピーピーエム(ppm)」という言葉を耳にしますがこれは100万分の1の濃度と言う意味で、1トンの水に1グラムのものが溶けている状態を指します。ホルモンはごく少量で作用するため、環境ホルモンもppt(ppmに比べて100分の1小さい)やppb(ppmに比べて100分の1小さい)っといったわずかの単位でも作用するのではないかと心配されています。

濃度 濃度

<濃度の単位>
(1gの水に対する濃度)
1ppm=0.000000/g
1ppb=0.000000001/g
1ppt=0.000000000001

実際にはまだ、化学物質それぞれのホルモンのかく乱作用の強さはほとんどわかっておらず、安全レベルがどの程度なのか、あまりわかっていません。
国の環境ホルモン対策は環境庁、厚生省、化学技術庁、通産省のそれぞれが、あるいはたがいに協力して調査、研究をはじめたところです。ヨーロッパ各国には遅れているものの、迅速な対応といえると思います。それほど、環境ホルモンの対策が人類の、ひいては地球の将来にたいして重大な影響を与える危惧があるからと考えられます。



対策はリサイクルと免疫力をつける食生活

環境と食生活は食物連鎖でつながっている!

自然界でできたタンパク質、炭水化物などは、微生物によって容易に分解され自然界に還元されて、循環し、調和が保たれています。本来「無駄なものなど何もない」はずなのですが、人間が、このみごとな環境を断ち切っているのです。例えば、プラスチックなどの化学合成物質の化学構造はがっちりしているために、自然界に存在する物質と異なって、微生物によって分解されることはありません。
 したがって、、生産すればするだけ増えてしまうことになります。ゴミとして埋めるか、燃やすかという最も安易な方法をとって、リサイクルする手間と努力を惜しみ、利益を最優先にしてきました。その結果がダイオキシン問題に象徴されています。ゴミを不用意に焼却するとダイオキシンが環境中に放出され、分解されず、食物連鎖によって、人間に影響を与えることになってしまいます。他の環境ホルモン(=有害化学物質)にも共通していえることは、自然界では非常に分解されにくいということです。
 この環境循環を改めるには、まずは、リサイクルの努力をし、有害化学物質を環境中に放出しないということを徹底しておこなえば、環境ホルモンをなくすことも不可能ではないと考えられます。(日本とほぼ同じ国土面積で工業大国のドイツは、徹底したリサイクルでダイオキシンの発生をほとんどなくすことに成功しています)。「買ってはいけない」という本がベストセラーになりましたが、買ってはいけない原因を正しく理解し、健康な地球を次世代に引き継ぐことも私たちの義務だと思います。
 ダイオキシン類の95%以上は食物を通して体内に入ってくるといわれていますが、また、食物繊維がダイオキシンの排出に役立つこともわかってきました。一つの栄養素に偏ることなく、緑黄食野菜を取りいれたバランスのとれた食生活をするよう心掛け、日頃から免疫力を強化する食生活を実践し、環境ホルモンに負けない体をつくっていくことが必要です。

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